【2019年4月施行】❶は中小企業への適用は2020年4月施行
1 労働時間に関する制度の見直し
➊時間外労働の上限は月45時間、年360時間、臨時的な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)が限度
※自動車運転業務、建設事業、医師等は猶予措置あり
❷労働時間の状況の客観的方法による把握の義務化
❸年次有給休暇5日分の時季指定義務化
❹フレックスタイム制の清算期間の上限を3か月に延長
❺高度プロフェッショナル制度の創設
2 勤務間インターバル制度の努力義務化
前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を確保する努力義務
3 産業医・産業保健機能の強化(労働者50人以上の事業場)
産業医に対し、必要な情報を提供するなど産業医・産業保健機能の強化
【2020年4月施行】❶❷は中小企業への適用は2021年4月施行
4 同一労働同一賃金
❶短時間・有期労働者について正規労働者との不合理な待遇の禁止に関するルールを明確化
❷有期労働者について一定要件に基づく均等待遇の確保を義務化
❸派遣労働者について均等・均衡待遇又は一定要件を満たす労使協定による待遇の確保を義務化
5 非正規労働者の待遇に関する説明義務の強化
短時間労働者・有期労働者・派遣労働者について正規労働者との待遇差の内容等の説明を義務化
(短時間労働者・有期労働者については中小企業への適用は2021年4月1日)
6 行政による履行確保措置及びADRの整備
4、5の義務について行政による履行確保措置及びADR(裁判外紛争解決手続)を整備
【2023年4月施行】
7 割増賃金率の中小企業への猶予措置廃止
月60時間超の時間外労働の割増賃金率(50%以上)について中小企業への猶予措置を廃止
過重労働による脳・心臓疾患等の発症を防止するため、医師の面接指導に関し、すべての労働者を対象に、労働時間の状況を把握しなければならない。
🔳改正のポイント
・改正前
「割増賃金を適正に支払うため、労働時間を客観的に把握することを通達・ガイドラインで規定」
→管理監督者等・みなし労働時間制の適用を受ける労働者は通達・ガイドラインの対象外
・改正後
「医師による面接指導を実施するため、すべての労働者の労働時間の状況を客観的な方法その他適切な方法※で把握するよう法律で義務化」
→管理監督者等・みなし労働時間制の適用を受ける労働者も対象
→長時間労働者に対する医師の面接指導を確実に実施
※タイムカード、パソコン等による客観的な記録その他適切な方法
使用者は、10日以上の年休が付与される労働者に対し、5日について毎年、時季を指定して消化させなければならない。
🔳年休を消化しない労働者がいると・・・
使用者が積極的に消化させない場合は、罰則適用(30万円以下の罰金)
🔳対象者は?
10日以上の年休が付与される労働者=比例付与の対象者(短時間労働者)など一部の者を除き、ほぼすべての労働者に適用
🔳労働者の時季指定と計画的付与との関係は?
時季を指定して消化させなければならない5日分から差し引いて構わない
例えば、計画的付与5日分の年休を与えることでもOK
🔳年休管理の厳格化
使用者は、労働者の年休の消化状況を確実に把握するため「年次有給休暇管理簿」を作成し、これを3年間保存しなければならない
Ⅰ フレックスタイム制の改正
より柔軟な働き方ができるように清算期間の上限が3か月に延長された。清算期間が1か月を超える場合、対象労働者の過重労働防止の観点から一定の制限が設けられた。
フレックスタイム制とは、「清算期間」の所定労働時間の枠内で、労働者が始業・終業時刻を自由に選べる制度。このため、労働者は、清算期間における所定労働時間に達するよう、労働時間を調整して働く(法定労働時間の総枠を超えれば割増賃金が発生)
—改正後の活用例—
7・8・9月の3か月のうち、子育て中の労働者が8月の労働時間を短くし、夏休み中の子どもと過ごす時間を確保する。ただし、労働時間が法定労働時間の総枠を超えた場合のほか、各月で週平均50時間を超えた場合は、その各月で割増賃金を支わなければならない。
—改正後のイメージ—
清算期間の総労働時間を定め、労働者がその枠内で始業・終業の時刻を選択して働くことができる
従来の制度では、4月の第2週に割増賃金の支払が必要だが、改正後は4~6月の総労働時間でみることが可能なため、割増賃金が不要
🔳改正のポイント
清算期間を3か月まで延長できるが、1か月超とした場合、次の2つの枠を超えないように労働時間を管理する必要がある。
❶ 清算期間における法定労働時間の総枠
「清算期間を平均し1週間当りの労働時間が40時間を超えない範囲」
❷ 各月における週平均50時間の枠
「清算期間をその開始日以後1か月ごとに区分した各期間(最後に1カ月未満の期間があるときはその期間)ごとに、各期間を平均し1週間当りの労働時間が50時間を超えない範囲」
➡清算期間を1か月超えとした場合、時間外労働となる時間は、「上記②を超えた時間」+「上記①を超えた時間〔上記②で算定された時間外労働時間を除く〕」となる。
🔳週の所定労働日数が5日の場合の特例
【特例の要件】
❶ 週の所定労働日数が5日
❷ 労使協定で「清算期間における所定労働日数×8時間」を労働時間の限度にできる
❸ この場合、1週間の法定労働時間は「❷の時間 ÷清算期間における暦日数/7」
❹ ❸の時間を使ってフレックスタイム制を組める
(結局、清算期間における法定労働時間の総枠は、❷に相当する時間となる)
【原則と特例の比較】
🔳中途入社・退社の場合の賃金の清算
清算期間が1か月を超える場合、労働させた期間が清算期間より短い労働者について、当該労働者を労働させた期間を平均し1週間当り40時間を超えて労働させたとき
→使用者は、その超えた時間(労基法33条又は36条1項の規定により延長し又は休日に労働させた時間を除く)の労働について割増賃金を支払わなければならない
【例:次の清算期間を定めたフレックスタイム制の対象者が途中退社】
上記の場合、次の計算を行う(必要があれば割増賃金を支払う)
❶ 実際に労働させた期間の労働時間=274時間
❷ 労働させた期間を平均し1週間当たり40時間の枠⇒40時間×42日÷7=240時間
❶が❷を超えるため、超えた時間(274時間−240時間=34時間)分の割増賃金を支払う
🔳その他のポイント
・労使協定は?
就業規則等の定めと労使協定の締結が採用要件
清算期間が1か月以内・・・労使協定届出不要
清算期間が1か月超え・・・労使協定届出必要
・特例事業では?
清算期間が1か月以内の場合・・・44時間で計算できる
清算期間が1か月超えの場合・・・44時間で計算できない
・1年間のうち特定の3か月を清算期間とすることは可能か?
可能。繁忙期付近で清算期間を設定すれば、割増賃金の抑制の効果が狙える
【勤務間インターバル制度】
勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設け、労働者の生活時間や睡眠時間を確保するもの
EU諸国では、概ね「24時間につき最低連続11時間の休息時間」が義務化されており、厳密に規制されている。
<イメージ図(例:11時間の休息を設ける場合)>
🔳法令の内容
(労働時間等設定改善法2条1項)
事業主は、労働者の労働時間等の設定の改善を図るため、業務の繁閑に応じた労働者の始業及び終業の時刻の設定、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定、年次有給休暇を取得しやすい環境の整備その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。
🔳改正のポイント
・勤務間インターバルを設けることは、普及促進を目指した努力義務
・普及促進に向け「時間外労働等改善助成金(勤務間インターバル導入コース)」が設けられている。
「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保(同一労働同一賃金の実現等)」を目指し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(短時間労働者、有期雇用労働者、派遣労働者)との間の「不合理な待遇差を解消するための規定の整備」が行われる。
さらに、「労働者に対する待遇に関する説明義務の強化」「行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備」が行われる。
Ⅰ 不合理な待遇差を解消するための規定の整備
① 不合理な待遇差の解消を目指す規定
【短時間労働者と有期雇用労働者について】
改正前 | 改正後 |
短時間労働者 ・均衡待遇の規定及び均等待遇の規定がある 有期雇用労働者 ・均衡待遇の規定はある ・均等待遇の規定はない |
短時間労働者及び有期雇用労働者 ・均衡待遇の規定及び均等待遇の規定がある
|
【均衡待遇と均等待遇】
均衡待遇 | 均等待遇 |
下記の考慮要素(①~③のうち待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの)を考慮して、不合理な待遇差は禁止 (注)これが適用されるのは、下記の考慮要素①と②のいずれかが正社員と異なる場合 |
正社員より不利益な取り扱いは禁止(正社員と同じ待遇が求められる ) (注)これが適用されるのは、考慮要素①と②が正社員と同じ場合
|
【考慮要素】
①職務内容(業務内容+責任の程度)
②職務内容・配置の変更範囲(いわゆる人材活用の仕組み・運用等)
③その他の事情
「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」では、上記の考慮要素によって、短時間・有期雇用労働者をタイプ分けして、同法の規定を適用
A |
①と②が正社員と同じ者 「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」 |
B |
①が正社員と同じ者(Aに該当する者を除く) 「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」 |
C |
Aにも、Bにも該当しない短時間・有期雇用労働者
|
【具体的な規定の概要】
A 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者
→基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱い禁止【均等待遇】
B 職務内容同一短時間・有期雇用労働者
→職務遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の実施義務などがある
その他、A以外の短時間・有期雇用労働者について、主要な賃金を就業の実態を勘案して決定する努力義務、主要な福利厚生施設の利用機会を与える義務などを規定
さらに、すべての短時間・有期雇用労働者を対象として、次のような原則的な考え方を規定
不合理な待遇の禁止(待遇全般についての原則的な規定)
事業主は、短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて通常の労働者の待遇との間において、職務の内容、当該職務の内容および配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮し、不合理と認められる相違を設けてはならない
☆これらの短時間・有期雇用労者の待遇に関する規定については、ガイドラインの策定などにより、規定の解釈が示される予定
② 不合理な待遇差の解消を目指す規定
【派遣労働者について】
改正前 | 改正後 |
派遣労働者と派遣先の労働者の待遇差については
→配慮義務規定が設けられているのみ |
派遣労働者について次のいずれかを確保することを義務化 ①派遣先の労働者との均等・均衡待遇 ○派遣労働者と派遣先労働者との均等待遇・均衡待遇規定を創設 ○教育訓練、福利厚生施設の利用、就業環境の整備など派遣先の措置の規定を強化 ②一定の要件を満たす労使協定による待遇○派遣元事業主が、次の要件※を満たす労使協定を締結し、当該協定に基づいて待遇決定(派遣先の教育訓練、福利厚生は除く) ★併せて、派遣先になろうとする事業主に対し、派遣先労働者の待遇に関する派遣元への情報提供義務を新設 |
※労使協定で定める内容
・賃金決定方法(一定の要件に該当するものに限る)
・派遣労働者の職務内容、成果、意欲、能力又は経験等を公正に評価して賃金を決定すること
・派遣元事業主の通常の労働者(派遣労働者を除く)との間に不合理な相違がない待遇(賃金を除く)の決定方法
・派遣労働者に対して段階的・体系的な教育訓練を実施することなど
Ⅱ 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
非正規雇用の労働者は「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができる。
事業主は、非正規雇用の労働者から求めがあった場合には、説明をしなければならない。
→説明義務に関する新旧の規定の有無の整理
【改正前→改正後】 ○=説明義務の規定あり / ×=説明義務の規定なし
短時間労働者 | 有期雇用労働者 | 派遣労働者 | |
賃金、福利厚生、教育訓練等の主要な待遇内容(雇い入れ時) | ○ → ○ | × → ○ | ○ → ○ |
待遇決定に際しての考慮事項(求めがあった場合) | ○ → ○ | × → ○ | ○ → ○ |
待遇差の内容・理由(求めがあった場合) | × → ○ | × → ○ | × → ○ |
Ⅲ 行政による履行確保措置及び裁判外紛争解決手続(行政ADR)の整備
都道府県労働局において、無料・非公開で行われる紛争解決手続きの対象となることを明記。
「均衡待遇」や「待遇差の内容・理由」に関する説明についてもADRの対象となる。